食 産地を訪ねて
滋賀の蔵 昔ながらの製法
熟成3年「地しょうゆ」守る寒暖の差が育む味
木のはしごを上り、杉樽の上にたどり着く。高さ3メートルはある。いくつも並ぶ樽の中には、しょうゆの前身のもろみ。冷房のない蔵の中は蒸し暑い。櫂棒で丹念にかき回し、発酵を促す。
滋賀県愛荘町。創業200年を超える「丸中醤油」の蔵を訪ねた。
樽ごとに微妙にもろみの色が違う。薄茶色、黒っぽい茶色。「1年、2年と熟成で色も変わります。耳を傾けてみてください。」と社長の中居真和さん。ぷちっ、ぷちっと音がする。もろみが生きているのだ。中居さんは五感を働かせ、色や音、香りで熟成を確認する。本醸造という昔ながらの製法を守る。大豆、小麦、塩、麹を合わせたもろみを発酵、熟成させる。製法を機械化させ、タンク内で温度管理し、6ヶ月程度で完成させるメーカーが多いが、ここでは気候まかせ。だから、熟成に3年の時間をかける。
「盆地ならではの寒暖の差が、よいしょうゆを生むんです」~(省略)
便利さで人気がある「だししょうゆ」などの加工品を売り出す地方のメーカーもある。しかし、中居さんは、加工品には手を出さず、しょうゆ一本勝負だ。~(省略)
今春、数千万円をかけて創業以来続く蔵の耐震工事をした。業者からは建て替えた方が安いと言われたが、昔からの蔵を残した。「天井や壁、床は微生物の宝庫。この微生物が熟成や味を支えてくれているんです」。時が育むしょうゆ。発酵調味料の文化を復活させたいと思っている。